私もおそらく他の多くの人の例に洩れず、これまでベルギーというと、チョコレートとか、画家マグリットとか、オードリー・ヘップバーンとか、フランダースの犬くらいしか、印象がありませんでした。

あとはせいぜい、私の知っているベルギーの作家でも、「青い鳥」のメーテルリンクとか、「死都ブリュージュ」のローデンバックとか、マルグリット・ユルスナールくらいでした。しかし、メーテルリンク以外の、フランダースの犬の作者のウィーダ(本名マリー・ルイーズ・ド・ラ・ラメー )はイギリス人で、イギリス文学という扱いのようですし。

もちろんベルギー人の血は、一滴も引いておらず、また彼女とベルギーとの関わりも、一八七一年に、ベルギーを旅行したことがあるくらい、という程度だったようです。

また後の二作品も、作者はベルギー人ながら、フランス作家という扱いですし。

しかし、今回紹介するトーマス・オーウェンは、ベルギー人であり、かつベルギー幻想派作家ということになります。

 

 

 

そして「ベルンカステルの墓地で」にも登場し、彼の友人でもあるらしいジャン・レイ、そして他にはミシェルド・ゲルドロード、ジェラール・プレヴォーと並んで、「ベルギー幻想派四天王」と称されているとか。

ちなみに、このオーウェン、一見こういう英語圏風の名前ですが、これはあくまでも彼のペンネームで、本名はジェラルド・ベルト。数年前に、ベルギーの幻想小説って、何か珍しいなと思って読んでみたら、思いの外に良かったです。

このトーマス・オーウェン以外にも、日本でも、他の三人のベルギー幻想派作家の作品の紹介も、もっと進んで欲しいなと思いました。特にオーウェンの作品、もっと読んでみたいです。しかし、この二冊もすでに絶版になってしまったし、かなり難しそうですね。

 

 

 

幻想小説ではあるのですが、怪奇要素も、しばしば含まれています。

元々は一冊であったものを、邦訳に当たり、

それぞれ「黒い玉」と「青い蛇」に分冊したようです。一言で言ってしまうと、悪意、悪夢、幻想、変容、そして所々に漂う、そのエロティシズム、そして解説の中で「かまきりのような女」と評されている、悪女的な女性達でしょうか。それから女性の吸血鬼。

そして著者は実は本業は実業家でもあるものの、一時は本格的に文学を目指していた時期もあってか、その叙情的な文章も、持ち味だと思います。やはり、ベルギーがフランスの文化圏でもあるという事も、関係あるのかもしれませんが。こうした文章も相俟って、怪奇色も強い小説とはいえ、独特の雰囲気を醸し出しています。

「黒い玉」の方が怪奇色が強めで、「青い蛇」の方が幻想色が強めに思えます。

 

 

 

 

 

以下「黒い玉」の目次。

「雨の中の娘」

「公園」

「亡霊への憐れみ」

「父と娘」

「売り別荘」

「鉄格子の門」

「バビロン博士の来訪」

「黒い玉」

「蝋人形」

「旅の男」

「謎の情報提供者」

「染み」

「変容」

「鼠のカヴァール」

 

 

以下「青い蛇」の目次。

「翡翠の心臓」

「甘美な戯れ」

「晩にはどこへ?」

「城館の一夜」

「青い蛇」

「モーテルの一行」

「ドナチエンヌとその運命」

「雌豚」

「ベルンカステルの墓地で」

「サンクト=ペテルブルグの貴婦人」

「エルナ 一九四〇年」

「黒い雌鳥」

「夜の悪女たち」

「鏡」

「アマンダ、いったいなぜ?」

「危機」